【第1話】サウナの人生初整いは一生忘れない【東京染井温泉SAKURA】
俺の名前は轟 大車輪。
名前に車が5つもつく珍しい名前だ。
こんな名前して運転免許の車校の仮免5回落ちたのは皆に内緒にしている。
広島県出身の社会人1年目だ。
俺は今、人生初めてサウナで整っている。
「ほ、ほげぇぇぇぇ」
頭がグワングワンする。だが、気持ちいい。
めまいに近いがまた違う感覚。そして全身のあるゆる血管に幸福が流れている。
外の世界と自分の境界線が曖昧になっていく。
なんだこれは??
ここは「東京染井温泉SAKURA」
俺はその露天風呂のすぐそばに座り込み、整っていた。
「うふふふ、これこそが整い。人生初整いは特に別格の気持ち良さ。一生忘れることはないんだよーーん!」
甲高い声で轟の脳内に直接語り掛ける。
そんな彼の名前は「とたっち」
サウナ神と名乗っており、とあるきっかけで轟に宿ることとなった神様である。
「福利厚生良くて、休日いっぱいあるとこにしか就職はしねぇ!」
2021年4月、轟は新入社員として大手食品メーカーに営業職で入社した。
その会社で4月1日から2週間ほど研修があるため、本社の東京で2週間ホテル住まいをすることに。
研修期間中も土日は休みであり、東京に友達の少ない轟は暇でやることがなかった。
轟の趣味は散歩で、知らない土地を目的もなくブラブラ歩くのが好きだ。
なので、ホテルの最寄り駅から電車に乗り、気分で駅を降りその周辺を適当に散歩をすることにした。
そして降りた駅が山手線は巣鴨駅。
この選択が後の轟の人生の歯車を大きく動き出したことをこの時はまだ知らない。
駅を降りてすぐ近くに染井霊園という墓地がある。
「桜が綺麗やのぉ」
染井霊園に満開に咲く桜に見とれる。
ヒラヒラ舞う桜の花びら、春の匂い、社会人になっり期待感で楽しみな反面、社会人としてやっていけるのかどうかの不安感。
様々な心情が複雑に入り乱れる中、桜の木の下をブラブラ歩いていると、狸型の岩が落ちていた。
「なんじゃこれ?」
轟は目を見張る。
大きさはだいたい直径30cmほど。
一見、コンクリートのような材質だが、明らかに地球外からやってきたと言わんばかりの異質で神々しいオーラを放っている。
轟はそれを感じつつも、危機管理能力がアホみたいに低い轟は頭で考えるより先に岩を持ち上げた。
「よいしょ!!」
大きさの割にかなり重い。が、無駄に馬鹿力な轟はなんとか持ち上げれることができた。
すると岩があった部分はいかにも深淵に繋がってそうな直径20cmほどの穴が空いている。
程なくして、その穴から直径1mはある黒い閃光が無数に上空へ舞い上がり、上空で四方八方に飛び散って行った。
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ」
轟は腰を抜かした。
すると、持ちあげていた狸型の岩が光り出し、狸のような物体が出てくる。
「な、な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ」
またしても腰を抜かす轟。腰を抜かしすぎである。
光り出した岩があまりに眩しいので、思わず目をつぶる。
目をつぶった刹那、轟の頬に強烈ビンタが飛んでくる。
バチコーーーーーン
「おぎゃぁぁぁぁ」
「きぇぇぇぇ!!やってくれたなぁぁあ!!このくそがきぎゃああ!早くその岩を元の場所に戻せぇぇぇぇ!!」
轟は慌てて元あった場所に岩を戻す。
その岩から飛び出してきたのは「とたっち」と名乗るサウナ神であった。
顔面 間抜け面の狸で、毛並みは茶色。
体長は30cmほど。
たぬきのクセに二足歩行しており、しっぽがとてつもなく長い。
常に3mぐらいの高さを浮遊しており、轟を見下ろしている。
目の前の状況に困惑する轟。
そんな轟にとたっちは
「ぐぬぬぅ!今は時間がない!あの黒い閃光『ちらかり』が刺さったサウナ施設で早く整わないと取り返しのつかない事になるにょお!」
とたっちは指を指す。
その先には「東京染井温泉SAKURA」があり、なんと施設中央に黒い閃光「ちらかり」が突き刺さっている。
突き刺さった「ちらかり」は上空を突き抜けており、テッペンが見えない。
そして僅かながら黒い蒸気を発生させており、周辺の空気が少しずつよどんでいくのがわかる。
「なんじゃありゃぁぁぁぁ!!」
叫び散らかす轟。
そんな轟をとたっちは「東京染井温泉SAKURA」へ連れていこうとする。
「ち、ちょっと待って!今からあそこいくのか??そもそも『ちらかり』ってなんだよ??あと、整うってなんだよ??急展開すぎるわ!」
「ぎょええええ!!質問が多いにゅぁあ!!今は答えてる場合じゃない〜!!頼むからは早く整ってくれぇぇい!!」
手足をバタバタ振り回し焦りをみせるとたっち。
駆け足で東京染井温泉へ向かう。
「(うわぁ、東京とは思えない緑っぷりじゃのお)」
東京染井温泉SAKURAの施設には草木溢れる日本園庭がある。
そこを抜けると入口がある。
靴を下駄箱に入れ、フロントで鍵を預ける。
木造ベースの和風な高級旅館を思わせる館内を通り、脱衣場へ急ぐ。
とたっち「早く脱げぇぇぇぇ」
轟「うるせぇ!!急いでるわぁ!!」
脱衣所の人らの視線が集まる。
とたっちの姿はサウナ神を宿した人間以外には姿は見えず、声も同様に聞こえたりすることはない。
「あ、すんません、、」
周りの人にヘコヘコ頭を下げる。
「ったく、、騒がしいやつめ」
「お前に言われたくないわ!」
とか、話している間にすっぽんぽんになり、浴場に入る。
「うひょひょい!まずは身体を清めるぞい!」
「清めるって身体を洗うってことか?」
「そう!先に身体洗うのはマナーだにょ!けど、サウナ前に身体を洗うことにはメリットがあるんだよん!身体洗って体の毛穴の汚れをとることでサウナでより発汗を促進させるんだじょ!結果、女の子にモテる美肌が手に入るっつぅ素晴らしすぎる話だよん!」
「モテる美肌ねぇ」
気だるそうに轟は言うが、これ以上ないぐらい念入りに身体を洗う。
「むふふ!次は温泉入って下地を作れ!」
「下地を作る?」
「身体をポカポカ温めることや!この下衆が!」
「急な悪口」
轟は内風呂である温泉に浸かる。
「あぁ、気持ちええわぁ、、、」
「下地作ることでサウナでより汗をかきやすくなるんだどぉ!」
「はぁ、、ん? てか、その整う? ためにはサウナじゃなくて温泉じゃダメなのか??」
「むぅぅ、、ダメってわけじゃないけど、とたっち様的には温泉よりしっかり汗をかけるサウナの方が整った時のより気持ち良くなれるにゃあ。まぁ詳しくはまた轟がサウナハマった時話してやるよん!」
「(整うって気持ちええもんなのか)」
2,3分浸かり、身体が火照ってきたところで
「さぁ!サウナ行くぞい!」
と、ここで轟がボソッと
「俺、あんまサウナ好きじゃないんよぁ。熱いし。」
と、ここでとたっちの2度目の強烈ビンタ。
「あぎゃああぁぁ!!何すんじゃ!!このくそ狸ぃぃ!」
「むきぃぃぃ!!黙ってついてこい!このヘタレチキン!おたんこなす!!サウナの良さを教えてやるぅぅう」
ブサイクに喚き散らかすとたっち。
だが、どこかワクワクしているようにみえた。
サウナ中に入ると、ムワッと熱気とご対面。それと共に微かなヒノキの香りがする。
サウナは相変わらず熱い。
だが、イメージしていたサウナの感じと少し違うことに気づく。
「湿度が高い??」
「よくわかりましたね。湿度が高いと実際の室温よりも体感温度は高く感じるのです。」
とたっちの口調が180°変わっている。
ブサイクで落ち着きのないから表情から一転し、悟りを開いたような穏やかな表情になっている。
「お前誰だよ」
「サウナ神・とたっちですが、どうかしましたか?」
「キャラぶれすぎだろ」
7段あるタワーサウナ。
1段上がるごとに温度が高くなる。
「上行くと熱いなぁ。2段目ぐらいでいいか。」
と、2段目に座る。
「熱いほうが整った際に気持ちいいですよ。騙されたと思って最上段行ってみてください。」
ニッコリと笑うとたっち。
「はぁ。(いい加減、整うってやつ教えてくんねぇかなぁ)」
轟は言われるままに最上段に座った。
すぐに大量の汗が全身から吹き出す。
「熱いけど、意外と耐えれるもんじゃのぉ、、、むしろなんか心地よい気がするし」
轟が座ってすぐにオートロウリュウが始まった。
天井の噴き出し口から水が放出。
サウナストーブの上に置いてある無数のサウナストーンにかかる。
ジュワーーーーーーーー
と心地よい音が弾ける。
と、同時に熱々の蒸気が轟たちを襲う。
「あちっっ!!」
轟は思わず声に出してビクッとしてしまう。
「ん?だが、悪くない?むしろ心地よいというか。マッサージで言う痛気持ち良い的な。」
「うふふ!そうです。これが本来在るべきサウナの姿なのです。先程のはロウリュウと言って、サウナストーンに水をかけて蒸気を発生させることを指します。
サウナの本場・フィンランドでは『ロウリュウ(蒸気)にはサウナの魂あり』とことわざがあるぐらいサウナにロウリュウは必要不可欠なのです。」
「ほぇぇ。たしかに。今まで入ったサウナはドライで皮膚がひりつく感じに苦手意識あったけど、湿度が変わるだけでこんなにも変わるもんなのかぁ」
「そうなんです、、日本ではその魂の抜けた不完全な形のままサウナが普及してしまった結果、サウナに苦手意識を刷り込まれた人が大部分になってしまいました。」
とたっちは少し悲しそうな表情をする。
「ところでサウナはどのくらいで出ればいいんじゃ?そろそろ出たいんやが」
「目安はもうそろそろ出たいなぁ、限界だなぁってストレスを感じ始めたぐらいを目安に退出するのをオススメします。時間的な目安は5-10分ぐら.......
「もう限界じゃ!!」
サウナ室を颯爽と出る。
「ふぅ、、熱かったぁ、、、」
「で、次はどうすればいいんだ?」
「次は水風呂に入ります。水風船に入る時間の目安はサウナ滞在時間の3,4分の1。まぁだいたい1-3分ぐらいですかね。」
「わかった!」
「汗はしっかり流してから入ってくださいね!」
汗を流し、水風呂に恐る恐る足をつける轟。
そして意を決し、思い切って水風呂に入る。
「ええぃ!!」
バシャン
「ふぉぉぉ!!冷でぇぇぇぇ、、
入った瞬間は冷たさに抵抗あったけど、すぐにその冷たさが心地よくなってきたぞ、、、」
「うふふふ。慣れたら病みつきになりますよ。」
1分ほどして水風呂を出る。
「あれ、なんかめちゃフワフワする。それに水風呂あがって身体は冷えきってるはずなのにポカポカするのぉ。」
「おひょひょい!ええやないかい!!そしたら早よどこに座るんだよんよん!」
「(あ、ブサイクな口調戻ったなこいつ)」
轟は外の露天風呂のふちに座り込む。
すると明らかな体の異変に気づく。
「(うぉぉぉぉ!!全身がふわふわする!?それに凄い多幸感!!なんじゃこりゃ気持ちよすぎるぞ??)」
あまりの恍惚感に轟は顔のニヤケがとめられなく、非常にみだらな表情になる。
「あ、もしかしてこれが、、、」
とたっちはニッコリと答える。
「チキチキブーーーン!!!
人生初整いおめでとう。これが整いってやつだよーん!!!」
すると とたっちの全身の毛並みが金色に輝きだし、ドラゴンボールのスーパーサイヤ人のようなオーラを出し始める。そしてどこから取り出したのか右手にヴィヒタを持ち、黒い閃光「ちらかり」に切りかかる。
「うぬぅぅぅぅ!!ヴィヒタ 大回斬り!!!!」
ズバババババ
「ちらかり」が徐々に崩れていき、黒いモヤが晴れ始める。
と、同時にヴィヒタの葉が多数舞う。
ヴィヒタの甘い香りがフワフワと漂い始める。
「あぁ、良い香りやぁ」
どうしようもないぐらいブサイクな表情になる轟。
とたっちのヴィヒタ大回転斬りにより、東京染井温泉SAKURAに刺さっていた「ちらかり」が完全に消失した。
「整いました!」
とたっちが両手を合わせ目をつむり、キリッとした声で叫ぶ。
「なんとかなったのか?」
ブサイクな表情が多少マシになった轟は尋ねる。
「んにゃ!まだこれは数百個あるうちのひとつに過ぎない!日本各地の『ちらかり』を1つずつ消失していかないと日本が大変なことなっちまうにょ!」
「大変なことって、、、『ちらかり』ってそんなヤバいものなのか?」
「『ちらかり』は別の呼び方で『エクセス・デジタル』と呼ばれるにょ!また詳しくはいずれ話す!さぁ次のサウナ施設に行くぞい!」
「あーいやこの後はホテル帰って星のカービィをしたいなぁと思っ....」
ばちこーーーん!!
本日3度目のビンタが鳴り響く。
「元はと言えばこうなったのはてめぇのせいだどぉぉぉ!!黙ってついてこいやぁぁぁ!!」
「とほほ」
こうして轟 大車輪のサウナ巡りの旅は始まったのである。